世界公認の石段は新緑の羽黒山頂へ

Photo by Manabu Kato in September 11, 2018

旅好きの私・加藤学はこれまで、全国47都道府県のうち40都道府県の土を踏みました。日本列島の東西南北さまざまな名所をここでも紹介してきましたが、意外なことにまだ7道県の土を踏んでいないのです。

その「栄えある」40県目となったのが山形県。東北地方にも何度か足を運んでいながら、唯一足を踏み入れていない県でした。

羽黒山頂上へと続く急な石段、ここは世界に高く評価された名所なのです。

Photo by Manabu Kato in September 11, 2018
私が今回訪れたのは山形県のやや北部。日本海に近い鶴岡市から、内陸部へ入った場所にある羽黒山 (はぐろさん)です。格調高い鳥居と門をくぐれば、そこは実に1,400年以上の歴史を誇る山岳信仰霊場

歴史深い五重塔に高くそびえる巨木、深い森林につづく長い長い石段、そして登り切った山頂に広がる世界…。ここへ来ればきっと心も体も清められるでしょう

長い石段をがんばって登ります。いざ出発!!

まずは東京から上越新幹線で新潟へ

まだ残暑厳しい2018(平成30)年9月11日。東京駅から上越新幹線に乗車して約2時間余り、私はJR新潟駅に降り立ちました。実は新潟駅に来たのも初めての事です。

Photo by Manabu Kato in September 11, 2018
Photo by Manabu Kato in September 11, 2018
新幹線からの眺め。広大な越後平野には、夏から秋への移り変わりが感じられました。

車窓からは青い日本海が…

新潟駅からはJR羽越本線・特急電車に乗りかえ、山形県を目指します。越後平野をどんどん行けば、やがて左側には青く果てしない日本海が…。遠くには粟島(あわしま)も見えました。

Photo by Manabu Kato in September 11, 2018
Photo by Manabu Kato in September 11, 2018
実は私が日本海を見るのは、高校の修学旅行以来32年ぶりなのです。日本海に会いたかった!!

鶴岡駅からはバスに乗り、羽黒山へ

新潟駅から約2時間でJR鶴岡駅に到着、私は初めて山形県にやってきました!!

ここ鶴岡市は山形県北西部の日本海沿岸に位置し、人口は約13万人。2005(平成17)年に近隣市町村と合併し、より大きく発展しつつある街です。

Photo by Manabu Kato in September 11, 2018
Photo by Manabu Kato in September 11, 2018
鶴岡駅前からは庄内交通バスに乗車。庄内平野の田園風景を進むこと約40分、羽黒随神門バス停に到着しました。すぐ向こうには鳥居が見え、登山姿の人もいますね。

羽黒随神門…ここからは神様の領域へ

バス停から歩けばすぐ、大きな鳥居が迎えます。そして左に見える建物が羽黒随神門

随神門(ずいしんもん)とは、神社に邪悪な者が入ってこないように「御門の神」をお祀りする門という意味。

いよいよここから、羽黒山へと入ります

Photo by Manabu Kato in September 11, 2018
鳥居上部の額には「月山 ・ 湯殿山 ・ 羽黒山」の文字が刻まれています。
Photo by Manabu Kato in September 11, 2018
山形県の北西部から中部にかけては、羽黒山をはじめ、月山(がっさん)湯殿山(ゆどのさん)という山々が連なり、これらを総称して「出羽三山(でわさんざん)」。 さらにはそれぞれに神社が鎮座しており、やはり総称して「出羽三山神社」と呼んでいます。

ここは、出羽三山というご神域への入口です

羽黒山の深い森へ足を踏み入れる

随神門をくぐると、そこは鬱蒼(うっそう)とした深い森。それだけで心と体が清められます。まず継子坂(ままこざか)を下れば、幾体もの神社が建ち並ぶでしょう。

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商売繁盛、五穀豊穣、家内安全、延命長寿、産業開発、航海安全、国土安穏、生命力向上、さらには縁結び、学問、芸能などなど…さまざまなご利益を授けられる神様が、お祀りされています。
Photo by Manabu Kato in September 11, 2018
Photo by Manabu Kato in September 11, 2018
心をこめて…手を合わせましょう

静かな滝音に心安らいで…

やがて右側には、静かに流れ落ちる須賀の滝(すがのたき)が現れます。江戸時代に、この羽黒山全体を管理・監督する役職を務めた天宥(てんゆう)というお坊さまが、約8km離れた沢から水を引いて造った滝。

Photo by Manabu Kato in September 11, 2018
高さは約20mあります。
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手前には祓川(はらいがわ)が流れ、滝のすぐ下には祓川神社。石の橋を渡って参拝できますよ。

太くて大きな羽黒山の「お爺さん」

須賀の滝からはスギの大木が目立つようになります。 中でも有名なのは国の天然記念物に指定されている「爺杉(じじすぎ)」。樹齢は1,000年以上、いちばん太い所では周囲約10mもある巨樹です。

…昔はすぐ近くに「婆杉(ばばすぎ)」があったのですが、明治時代に台風で失われてしまいました。

Photo by Manabu Kato in September 11, 2018
Photo by Manabu Kato in September 11, 2018
長い長い間、羽黒山を見守ってきた「おじいさん」

森の中に気高くそびえる羽黒山五重塔

まもなく左奥には、羽黒山を代表する名所・五重塔が見えてきます。ぜひ立ち寄ってみましょう。

関東地方にその名をとどろかせた武将・平将門(たいらのまさかど)が1,000年以上前に創建したと伝えられますが、現在の塔は14世紀~15世紀頃に再建されたものです。

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高さは29.4m。羽黒山では最古の木造建築、そして東北地方最古の塔で、1966(昭和41)年に国宝の指定を受けました。スギの大木と共に、ここ羽黒山の歴史を見守ってきたのです。

実は150年ぶりに塔の内部が公開されていました
(残念ながら撮影は禁止)

五重塔を出れば、羽黒山への急な石段がはじまります

いよいよはじまりました、長い長い石段!!

五重塔から少し進むと、羽黒山名物の長い石段参道がはじまります。標高414mの頂上まで、標高差約310mの急坂。まずは「一の坂」から、心を落ち着けて登りましょう。

Photo by Manabu Kato in September 11, 2018
Photo by Manabu Kato in September 11, 2018
…実はこの石段、全部で2,446段あるのです!!

羽黒山は苦行を積む修験の地

伝説によれば羽黒山は約1,400年前、時の崇峻天皇(すしゅんてんのう)の子、蜂子皇子(はちこのおうじ)によって開かれたとされます。権力争いの中で父・崇峻天皇が亡くなり、皇子はこの山へ逃れてきました。

そして「三本足の鳥」に導かれつつ、険しい山々を苦しみながら登り、出羽三山神社を建てたのです。

Photo by Manabu Kato in September 11, 2018
その一方で、日本の歴史に有名な高僧・空海 (弘法大師) や、飛鳥時代の呪術者で山岳修行の開祖とされる役小角(えんのおづぬ)によって開かれたという説も、強く信じられてきました。そのため羽黒山は、山にこもって修行を積み、自己を鍛える「修験道の山」とされており、今も秋と冬には厳しい「荒行」が行われています。

このような経緯もあって羽黒山には、神様への信仰と、仏教への信仰を共に尊重する「神仏習合(しんぶつしゅうごう)」が、今も根付いているのです

樹齢500年の杉並木と共に山奥へ…

9月になったとはいえまだ残暑厳しい山形県。しかし石段両側に並ぶ、実に600本近い特別天然記念物の杉並木が大きな木陰をつくり、暑さをしのぐことができました。

Photo by Manabu Kato in September 11, 2018
Photo by Manabu Kato in September 11, 2018
石段両側には所々に神社が建ちます。お参りすれば心が癒されるでしょう。

ここからが正念場!! 羽黒山で最も急な坂

「一の坂」を過ぎると、最も勾配のきつい「二の坂」です。昔、かの有名な武蔵坊弁慶(むさしぼうべんけい)が、あまりの急勾配に、神社に奉納するため運んでいた油をこぼしてしまったことから「油こぼし」と呼ばれるほど、本当に急な坂道ですよ!!

 …でも坂道の上に、何か見えてきました。

Photo by Manabu Kato in September 11, 2018
Photo by Manabu Kato in September 11, 2018
二の坂茶屋です。あそこで休憩しましょう。がんばれ~!!

絶景と味に疲れも吹き飛んだ!!

五重塔から約20分、石段の中間点「名物力餅 二の坂茶屋」に到着しました。

庄内平野と青い日本海の景色が素晴らしい!! 右の方には日本海に浮かぶ飛島(とびしま)も見えます。ここは霧に覆われることが多く、「こんな景色が見られるのは運がいい」そうです。

Photo by Manabu Kato in September 11, 2018
Photo by Manabu Kato in September 11, 2018
絶景を見ながら、おすすめの「ミックス餅(あんこときなこ、抹茶付)」をいただきました。

人々をもてなす茶店の努力を感じて

二の坂茶屋は江戸時代創業という老舗。羽黒山に参拝する人々は、杵つきの餅を食べて「力」をつけたのでしょう。

ここは車やバイクが入れない場所。春から秋の営業期間中、食材や品物はすべてお店のみなさんが、この石段を歩いて運び上げるのです。…本当に頭が下がりますね。

Photo by Manabu Kato in September 11, 2018
Photo by Manabu Kato in September 11, 2018
さあ、お餅で元気回復!! 再び石段を登りましょう。

世界最高級ガイドブックも絶賛の羽黒山

冒頭部分で「羽黒山は世界に高く評価された名所」とご紹介しました。それはこの石段と情景が、フランスのミシュラン社が出版する「ミシュラン・グリーンガイド・ジャポン」で、3つ星を受けているためなのです。

Photo by Manabu Kato in September 11, 2018
Photo by Manabu Kato in September 11, 2018
世界最高評価の名所を訪れる数少ない機会、羽黒山を心から味わいましょう。

あの有名人も訪れた羽黒山

日本の歴史で最も有名な旅人といえば、江戸時代の俳人・松尾芭蕉(まつおばしょう)ですね。

このあたりは南谷(みなみだに)と呼ばれ、江戸時代には紫苑寺(しおんじ)というお寺がありました。そのお寺を建てた人こそ、先述の「須賀の滝」を造った天宥というお坊さまです。…実はこの紫苑寺に、松尾芭蕉が宿泊・滞在したことがあるのです。

Photo by Manabu Kato in September 11, 2018
近くには「芭蕉塚」の石碑が。
Photo by Manabu Kato in September 11, 2018
松尾芭蕉の記した「奥の細道」に憧れ、羽黒山を訪れる人も少なくありません。

さあ最後の急坂、がんばろう!!

いよいよ最後の難所、「三の坂」にさしかかりました。

Photo by Manabu Kato in September 11, 2018
Photo by Manabu Kato in September 11, 2018
秋を告げる花、ツリフネソウが励ましてくれます。

ほら、頂上まであと少し!!

Photo by Manabu Kato in September 11, 2018
Photo by Manabu Kato in September 11, 2018
がんばれ~ がんばれ~!!

神々しさあふれる羽黒山頂上へ

頂上直前には、羽黒山参籠所・斎館(さいかん)があります。参籠所(さんろうじょ)とは神仏にひたすら祈りを捧げるため、一定期間生活する施設。松尾芭蕉も味わったという、格調高い精進料理が有名です。

Photo by Manabu Kato in September 11, 2018
Photo by Manabu Kato in September 11, 2018
羽黒山随神門から、休憩も含めて約1時間25分。羽黒山頂上大鳥居に到着です。
2,446段を登りました!!

羽黒山の霊気に自分を見つめ直す

ここが羽黒山頂上(標高414m)。「山」という呼称は付いていますが、正確には「丘」とされています。

広い山上には、歴史を感じる数多くの建物が並んでおり、その中心こそ羽黒山三神合祭殿 (さんじんごうさいでん) です。茅葺(かやぶき)屋根に、いっそう神々しさを感じるでしょう。

Photo by Manabu Kato in September 11, 2018
月山と湯殿山は、高く険しい山や谷である上に距離が遠く、しかも冬は深い雪に閉ざされます。そのため人里近い羽黒山に、三つの山の神様を合わせてお祀りし「出羽三山神社」として崇拝する、全国でも貴重な神社なのです。

…昔から「羽黒山は現代、月山は過去、湯殿山は未来」とされてきました。

人々は、羽黒山で今の自分を見つめ月山で過去の自分を思い返し、

湯殿山で新しく生まれ変わる…と言われます。

羽黒山を開いた皇子も安らかに…

羽黒山三神合祭殿…近年は有名パワースポットとなりました。

Photo by Manabu Kato in September 11, 2018
Photo by Manabu Kato in September 11, 2018
こちらは三神合祭殿に隣接する蜂子神社。羽黒山を開いた伝説の蜂子皇子をお祀りしています。

山上にひっそりと立つ松尾芭蕉の像

芭蕉が羽黒山を訪れたのは1689(元禄2)年6月。その後、月山~湯殿山神社へと長い道のりを歩いたのです。

Photo by Manabu Kato in September 11, 2018
羽黒山の旅もそろそろ終わりに近づいてきました。

しかし私の旅はまだまだ続き、実はこの後3泊4日をかけて、松尾芭蕉が歩いたと思われる羽黒山~月山~湯殿山神社~志津温泉までの約50kmを歩きぬいたのです!!

Photo by Manabu Kato in September 12, 2018
写真は翌9月12日、月山四合目~五合目間から眺めた鳥海山。写真中央部分が羽黒山です。

ただしこの道は、非常に長く厳しく険しいため、一般の方にはおすすめできません。

月山(標高1,984m)頂上と月山神社
Photo by Manabu Kato in September 13, 2018
湯殿山神社大鳥居と参籠所
Photo by Manabu Kato in September 14, 2018
羽黒山~月山~湯殿山神社へは、7月から9月まで路線バスが運行されています。
(11月上旬頃から4月下旬頃までは積雪のため、山そのものが閉鎖されます)

人々の心と体を癒す、羽黒山の深い緑

羽黒山には「神仏習合」が今も深く根付いています。それが現実になるまでには、多くの人々の対立と衝突の歴史があったにちがいありません。しかし思想や目標のちがいはあっても、羽黒山を敬う気持ちは同じ。

だからこそ人々は、この羽黒山で「自分自身を見つめ直し、生まれ変わる」のでしょう。このような神様・仏様を尊ぶ山に、世界のみなさんが「ぜひ行ってみたい」と考えるのも、不思議ではないですね。

Photo by Manabu Kato in September 11, 2018
松尾芭蕉が羽黒山に足を運んだのは、ちょうど新緑あざやかな初夏。その美しさを詠んだ俳句があります。

涼しさや ほの三日月の 羽黒山
「涼しい風の吹く初夏の羽黒山、空には三日月がほんのりと見える。何という心地よさだろうか…」

2,446段の石段を登れば、そこにはきっと新しい世界が広がっているでしょう。
日常生活に疲れたならば、羽黒山へいらっしゃい

羽黒山への交通機関と概要

【羽黒山グーグルマップ】

【羽黒山への交通アクセス】
【電車・バスでのアクセス】
●東京駅から上越新幹線「Maxとき」に乗車し、約2時間弱で新潟駅。
新潟駅からはJR白新線(羽越本線)の特急「いなほ・酒田行」に乗車し、約1時間50分で鶴岡駅に到着します。

●鶴岡駅前から、庄内交通バスの羽黒・月山線「羽黒山頂・月山八合目方面行」に乗車。約40分(840円)で、羽黒随神門バス停に到着。また羽黒山頂へは約60分(1,210円)で到着します。

詳細は「庄内交通」の下記サイトをご参照ください。(バス料金は2020年1月8日現在)
www.shonaikotsu.jp/local_bus/index.html

【羽黒随神門バス停から、徒歩でのアクセス】
以下は私の歩いたコースタイムです。(休憩時間等は除く)

●羽黒随神門バス停 (2分) 羽黒随神門 (5分) 須賀の滝 (5分) 羽黒山五重塔 (2分) 一の坂石碑 (20分) 二の坂茶屋 (10分) 三の坂石碑 (20分) 羽黒山頂大鳥居 (2分) 羽黒山三神合祭殿

羽黒山の石段は登山道です。体力と体調に合わせ、決して無理をしないように

【羽黒山・各関連リンク】
●出羽三山神社公式ホームページ 羽黒山
http://www.dewasanzan.jp/publics/index/71/

●つるおか観光ナビ
https://www.tsuruokakanko.com/spot/548

●休暇村 庄内羽黒 (私の宿泊した場所です)
https://www.qkamura.or.jp/haguro/

最後に…羽黒山へ登った認定証です!!