日本の国土面積の約7割は森林と言われています。島国でありながら、山と森の国でもある。それが日本です。
今回ご紹介する場所も、そんな日本の深い山の中にあります。
徳島県三好市、高知県と接する四国山地の真っただ中。V字型の深い渓谷である祖谷渓(いやけい)や、吉野川の両側になんとも奇妙な岸壁風景を作り上げる大歩危・小歩危(おおぼけ・こぼけ)。
一歩踏み込んだ日本の魅力を感じたいなら、必ず訪れるべき場所です! それではご紹介していきましょう。
祖谷、大歩危・小歩危とは
四国の中央を東西に横たわる四国山地。その山々の間を縫うように流れるのが、四国最大の流域面積を誇る吉野川です。吉野川は別名「四国三郎」とも呼ばれ、日本でも有数の暴れ川として知られています。
そんな山河がこの一帯の風景を作り上げました。
祖谷渓

吉野川の支流である祖谷川が、山々の間に深く切り込んだV字型の渓谷を刻み込んだのが祖谷渓です。
春は山桜や山藤、つつじなどの花に彩られ、夏は生い茂った緑が幾重にも折り重なり、秋は谷底から峰まで紅葉の錦をまとい、冬には真っ白く幽玄な雪化粧と、まさに日本の山の四季の美しさを見渡せる場所となっています。
一口に“祖谷”と言ってもその範囲は広く、ホテルやお土産屋さんが並ぶ比較的にぎやかなところもあれば、斜面に点在する家々が日本の山村の原風景の風情を残す集落、ただただ自然の作り出した絶景を見渡せる場所もあります。

そんな祖谷渓の象徴とも言えるものが“かずら橋”でしょう。木々の中に溶け込むようにかけられた、シラクチカズラで編まれた昔ながらの吊り橋がかずら橋です。
狭い渓谷にかかる小さな橋ではありますが、風景と溶け込んでとても味わい深いものがあります。もちろん実際に渡ることもできます(有料)。渡ってみると、足元の板の隙間から祖谷川の流れがすぐ真下に見え、なかなかスリリングですよ。
かずら橋は比較的にぎやかな西祖谷にあるのが有名ですが、奥祖谷とも呼ばれる東祖谷の方まで行くと、2本のかずら橋が並んでかけられているところもあります。
行きやすいのは断然西祖谷のかずら橋ですが、より山奥の素朴な橋の雰囲気を楽しみたいなら、奥祖谷まで足を運んでも損は無いですよ!
大歩危・小歩危

祖谷渓を西に下って、祖谷川が本流の吉野川に合流した辺りに延びるのが、大歩危・小歩危の渓谷です。
大歩危・小歩危は吉野川の中流域にあたり、透き通ったエメラルドグリーンの水面、両側に広がる結晶変石の岸壁が、独特の風景を生み出しています。この岸壁の岩々は、1~2億年前の海底の地層が一度海洋プレートの沈み込みとともに地中深くに入り込み変成を受けた後、四国山地の隆起とともに地表に現れ、吉野川の水流に浸食されて露出したものです。これは日本列島の成り立ちを知る上での重要な研究素材としても注目されているものです。
もちろん専門的な知識などなくとも、その水の美しさや、彫刻のような岸壁の姿には圧倒されるものがあります。やはり季節ごとに、木々の緑や紅葉、雪に彩られて様々な風景を見せてくれるのがこの渓谷です。
どうやって楽しむ? ユニークなアトラクション!
さて、ではこの祖谷、大歩危・小歩危の魅力を存分に味わうのには、いったいどんな方法があるでしょうか。
実はこの祖谷、大歩危・小歩危には、このエリアを満喫する個性豊かな乗り物がいくつもあるんです。ライトなものからディープなものまでありますので、ぜひご自身の好みに合った「これは!」というものを見つけてください!
定期観光バス

【オススメ度】★★★★☆
【こんな人にオススメ】定番を押さえて効率よく観光したい
阿波池田のバスターミナル発着の定期観光バスを利用するのは、このエリアを満喫する最も賢い選択の1つでしょう。
祖谷、大歩危・小歩危のエリアは1つ1つの見どころが離れているので、歩いて巡るのはかなり難しいです。かといって路線バスやタクシーを利用するのも、本数が少なかったり、お金がかかったり……。
自力であちこち巡るのは大変な祖谷、大歩危・小歩危のエリアも、観光バスに乗れば1日で効率よく楽しめます。
上に紹介したかずら橋や、祖谷の渓谷がダイナミックに見渡せる展望台、江戸時代の民家を保存し当時の生活の様子を垣間見られる資料館、下に紹介する大歩危峡の遊覧船、そして郷土料理の昼食と、観光のポイントをしっかりと押さえていますので、どこを見ようか迷うならこれに乗れば間違いないといったところです。
またこの観光バスは、時期によってはレトロなボンネットバスでの運行となり、バス自体にも味わいがあります。曲がりくねった細い山道を、大きなバスで巧みに進むドライバーさんの腕前にも感嘆! ただスポットを巡るだけではなくて、バスに乗ること自体が楽しい思い出の1つとなってくれるはずです。
予約制。時期によって運行日が異なります。ボンネットバスは走る時期が決まっています。それ以外の時期は通常の観光バスでの運行になります。
料金 |
大人7,800円 小人7,300円 *昼食・観光料含む |
運行期間 |
3月第3土曜日~11月30日の土・日・祝日 (5月・8月・10月・11月は毎日運行) ボンネットバスでの運行は3月~6月、10月、11月 (整備等で一般貸し切りバスになることもあります) |
お問い合わせ |
列車

【オススメ度】★★☆☆☆
【こんな人にオススメ】ゆっくり立ち寄る時間は無いけれど、少しでも渓谷の様子を見てみたい。山間を走るローカル線の雰囲気を楽しみたい。
大歩危・小歩危の辺りは、香川と高知をつなぐJR土讃線(どさんせん)が通っています。
断崖にへばりつくように線路が敷かれているような場所や、吉野川にかかる鉄橋を渡るような場所もあって、渓谷の風景を車窓に見ることができます。スケジュールの都合上なかなかゆっくりは立ち寄れないという場合でも、四国での移動にこの土讃線を組み込めば、大歩危・小歩危の景色を楽しむことができますよ。
特急で駆け抜けていくのもいいですが、敢えて1両編成の鈍行に乗って、ローカルな雰囲気を味わってみるのもいいかもしれません。
また、1日1往復だけですが、香川県の琴平から大歩危を結ぶ観光列車「四国まんなか千年ものがたり」も走っています。普通列車や特急とは違って、趣深い装飾、くつろいだ車内でゆったりと旅を楽しめますので、列車が好きな方には是非ともオススメしたいです!
土讃線が走るのは吉野川沿いの大歩危・小歩危の辺りとなり、その奥の祖谷の風景を列車から見ることはできません。
便数は多くはありませんので、途中下車してみたいなんて時には、時刻表を必ず事前にチェックしておきましょう。
大歩危峡観光遊覧船

【オススメ度】★★★☆☆
【こんな人にオススメ】岩石や川の様子を間近で見たい!
観光船に乗ると、道路から見下ろすだけではわからない川や岸壁の美しさや迫力を、さらに一層身近に見物できます。
小さな船に座って約30分。吉野川の透き通った水や、左右の岩に刻まれた地層の様子などが、手が届きそうなほど近くに見て取れます。
随時運航なので、時刻表を気にする必要もありません。1人からでも気軽に利用できるので、大歩危に来たからには必ず乗って欲しい船です!
晴れていれば屋根なし、雨なら屋根つきで、天候に左右されないのも嬉しいですね。晴れていれば空と水と木々のコントラストが鮮やかに、曇りや雨なら霞む岸壁の姿が一層神秘的になって、どんな時でもその時だけの特別な姿を見せてくれますよ。
ちなみに冬の寒い時期には、船の中にこたつを設置した「こたつ船」になるんですよ。ちょっと変わった体験が好きな方には、このこたつ船はオススメです!
川の増水や強風などで欠航になることもありますので、荒天時にはご注意。
料金 |
大人1,080円 小人540円 |
運行情報 |
9:00~17:00/随時出発/所長時間約30分/年中無休 |
お問い合わせ |
ラフティング

【オススメ度】★★★★★
【こんな人にオススメ】自然をめいっぱい体感したい! スリルのある体験がしたい!
実は吉野川は、日本屈指のラフティングコースを持つ川です。
ラフティングのできる河川はその難易度によって6つのグレードに分かれますが、吉野川の大歩危エリアはグレード3プラス、そして小歩危エリアは日本で唯一グレード4が付けられています。
また、大歩危・小歩危エリアは2017年には日本で初めてラフティング世界選手権の会場にも選ばれた、まさに世界レベルの激流なんです。さすが暴れ川「四国三郎」の名に恥じないと言ったところでしょうか。そんな吉野川の自然を骨の髄まで体感したいなら、ラフティングに挑戦するほかありません!
「そうはいっても、ラフティングなんてやったことないし、恐そう……」
なんて方も心配なさらず。吉野川でラフティングを楽しめるツアー会社はたくさんあり、中にはお年寄りや小さなお子様でも楽しめるような緩やかなコースを設けているところもあるんです。もちろん激流を存分に楽しめる迫力満点のコースでも、ガイドさんがしっかりサポートしてくれるので、未経験だったとしても尻込みすることはないですよ!
「かくいう私も普段は全くスポーツとは無縁の人間ですが、そんな私でも十分に楽しめるのがラフティングなんです。」
激流にもまれるばかりではなくて、周りの景色を眺める余裕もあるゆったりとした流れの場所もあるので、本当に余すところなく大歩危・小歩危の魅力を堪能できますよ!
こればかりは、体験してみないと分かりません。ラフティングに挑戦すれば、この風景を作り出した自然の力強さを全身で感じることができるでしょう!私のイチオシです!
ほとんどの会社が冬期間は営業していません。また、水着など事前に用意するべきものもありますので、ツアー会社の案内をしっかり確認しておきましょう。
料金 |
5,500円~15,000円前後(会社やコースによる) |
時期 |
主に4月~10月ごろ(会社による) |
奥祖谷観光周遊モノレール

【オススメ度】★★☆☆☆(でも人によっては★★★★★★!?)
【こんな人にオススメ】とにかく自然が大好き! 日々の喧噪を忘れて木々の中でのんびりしたい。
祖谷エリアの中でもひときわユニークなのがこの奥祖谷周遊観光モノレールです。
かずら橋からさらに東へ、奥へと入っていったところにあるのがこのモノレール。2人乗りの小さなモノレールが、森の中をゆっくりゆっくり進みます。所要時間は約65分。
見どころは……あまりないかもしれません。頂上でほんの少し視界が開ける以外は、とにかくひたすら森の中です。地味と言えば地味です。
ですが、そうかと言って侮ってはいけません。
実はこのモノレールは全長4.6km、高低差590m、最大傾斜40度、最頂標高は1380mと、観光用モノレールとしては世界に類を見ない規模なんです。傾斜部分ではシートが動いて水平になったりと、案外ハイテクなのも面白いです。
ゆっくり進むのでジェットコースターのような迫力はありませんが、結構な傾斜を進んでいくのはそれなりにスリルがありますし、モノレールは人気のない山の中を進むので、時折他の車両にすれ違う以外は、完全に自分だけの世界が味わえます。登山道にもなっていないような場所を進んで行くので、木々のざわめきや鳥のさえずる声以外には何も聞こえてきません。
「観光地に行っても周りに観光客だらけだと風情もない」なんて思ってしまう方には、このモノレールの65分はとても貴重な時間でしょう。
「日常を忘れて心の底からのんびりしたい」なんて方には、間違いなくオススメできる乗り物です。
「退屈でつまらなかった」と思う人と、「楽しくて充実した時間だった」と思う人、感想が真っ二つに分かれてしまうこのモノレールですが、私は是非とも旅の選択肢に入れてほしいと思います!
台数が限られているので、オンシーズンや休日は乗車まで数時間待ちになることもしばしばあります!
メンテナンスのため、営業時間内であっても乗車券の販売が終わってしまうこともあるので、乗りたいという場合は早めに向かうことをお勧めします。予約はできません。
数時間待ちになってしまった場合は、隣にあるホテルで温泉に入ってゆっくりしたり、周辺観光をしたりして時間をつぶすとよいでしょう。車必須にはなりますが、奥祖谷には昔ながらの山村風景が見られる落合集落や、二重かずら橋などのビューポイントもありますよ。
料金 |
大人2,000円 小人1,000円 |
営業時間 |
4~9月 8:30~16:00 |
まとめ
祖谷、大歩危・小歩危のエリアは、「まさにこれこそ日本の山の風景!」と言える場所です。
今回はこのエリアで楽しめる「乗り物」に焦点を当てて記事を書きましたが、どれを選んだかできっと受ける印象も変わってくるでしょう。けれどどれを選んでも必ずこのエリアの魅力に触れられます!
旅の目的やスタイルに合わせて様々な楽しみ方ができるのが、祖谷、大歩危・小歩危のエリアです。辿りつくのはちょっと大変かもしれませんが、この地に一歩足を踏み入れたなら、きっと日本の自然の奥深さと、山とともに生きる人々の原風景に触れることができるでしょう。
1度と言わず、季節を変えて2度、3度、訪れる度にあなたを魅了してくれますよ!

旅行好きが高じた元添乗員。今は1児の母として子育て奮闘中。まだまだ行きたい場所は尽きません。特に好きな場所は北海道と四国、山陽。小さいようで大きな日本の様々な魅力を発信していきたいと思っています。