筑波山は関東平野の空高く(前編)

Photo by Manabu Kato in November 12, 2019

旅行好きの私・加藤学は、同時に登山好きです。自然豊かな岐阜県岐阜市で生まれ育ったこともあり、子供の頃からの遊びと言えば、野鳥や昆虫を追いかけながらの山歩きでした。

その遊びは年を重ねて本格的な登山となり、これまでには富士山をはじめ北アルプスや南アルプス、八甲田山や谷川岳などへの登頂を果たしています。

…現在私が住むのは神奈川県箱根町仙石原。箱根の山々はもちろん富士山や丹沢連峰、愛鷹連峰などに囲まれる私の日常生活は、いつでも山と切り離せないのです。

筑波山(最高峰・女体山)頂上に立つ標識
Photo by Manabu Kato in November 12, 2019
気がつけば関東地方・首都圏での生活が四半世紀を超え、その中で時間を見つけてはいろいろな山に登ってきた私・加藤学。…しかし唯一、登るどころか近づくこともなかった山がありました。それがここに紹介する筑波山(つくばさん)なのです。

関東地方に長く住みながら、これまでほとんど縁のなかった山。しかしその分「いつかは必ず登りたい山」という想いは強くなります。そして新たな令和元年の晩秋、ついにその日はやってきました。

今回私は、1日目に自身の足で、2日目にロープウェーを利用して、計2回登頂しました!!
人生初の筑波山登山を、前編・後編に分けてお送りします。

Contents

東京駅から高速バスで茨城県へ

箱根町の自宅を早朝に出発し、小田原駅始発の東海道新幹線に乗車。7時20分には東京駅です。

東京駅八重洲南口バスターミナルから7時40分発の高速バス「つくば号」に乗り、まずはつくばセンターへ向かいましょう。…超高層ビル群が朝の青空に映えますね。

Photo by Manabu Kato in November 12, 2019
Photo by Manabu Kato in November 12, 2019
車内から見た東京スカイツリー。約9時間後に再び見られるとは、この時思ってもいませんでした。

バスを乗りかえ、一路筑波山へ…

東京からは常磐自動車道を北上して茨城県つくば市内へ、約1時間10分でつくばセンターに到着です。ここからは「筑波山シャトルバス」に乗りかえ、登山拠点の筑波山神社を目指しましょう。

…やがて筑波山が姿を現しました。筑波山神社は写真の中央、赤い大鳥居がわずかに見えます。

Photo by Manabu Kato in November 12, 2019
Photo by Manabu Kato in November 12, 2019
バスにゆられること約35分余り、筑波山神社入口大鳥居に到着しました。本当に見事な快晴です!!

あっ…、富士山が見えた!!

大鳥居から振り返ると…関東平野の向こうに、新雪輝く富士山が見えました。地図で測ってみると、筑波山からは西南へ約160kmの距離です。

…実は富士山と筑波山には、伝説があるのです。

Photo by Manabu Kato in November 12, 2019
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筑波山神社へは商店街のゆるやかな坂道を歩きます。飲み物や食べ物を買っておきましょう。

めざす筑波山が真上に見えた!!

やがて筑波山神社の境内へ入りました。真上にはこれから登る、筑波山頂上が見えます。

Photo by Manabu Kato in November 12, 2019
Photo by Manabu Kato in November 12, 2019
石段を上れば筑波山神社随神門。 随神門(ずいしんもん)は、邪悪な者の侵入を防ぐ守り神です。

太古の昔から信仰される筑波山神社

茨城県の歴史や地理・生活・交通などを記した地誌「常陸国風土記(ひたちのくにふどき)」によると、筑波山神社「関東平野に人が住みはじめた頃から崇拝されていた」とあります。

Photo by Manabu Kato in November 12, 2019
Photo by Manabu Kato in November 12, 2019
こちらが拝殿、登山の安全を祈願しましょう。

御祭神は日本神話で有名な伊邪那岐命(イザナギノミコト・男神)と、伊邪那美命(イザナミノミコト・女神)。筑波男ノ神(つくばおのかみ)、筑波女ノ神(つくばめのかみ)として、お祀りされているのです。

さあ、いよいよ筑波山登山口へ

参拝を終えたら神社に向かって左側へ進み、石段を上ります。

筑波山ケーブルカー・宮脇駅 (標高305m)。 ここで必ずトイレをすませておきましょう。
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宮脇駅を左に見送って、筑波山登山道(御幸ヶ原コース)入口へ。 
ここから、筑波山への険しい登山道がはじまります!!

岩石の多い急斜面を、ひたすら登る

休憩場所もあるので、あせらずゆっくり登りましょう。

Photo by Manabu Kato in November 12, 2019

ケーブルカーの真横へ出ることも…、 とにかく急な登りです。

ただひたすら、登る、登る、登る…!!

ここで、少し筑波山のお話をしましょう…

東京や千葉など、大都市圏から程近い筑波山(つくばさん)は、茨城県のやや西部にそびえる山。地元では筑波嶺(つくばね)の名で親しまれ、多くの学校の校歌に登場する他、季節によってはその山肌が紫色に見えることから、紫峰(しほう)とも呼ばれています。

御幸ヶ原にある説明看板です。こちらを拝借して説明しましょう。

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筑波山には2つの頂上があり、左が男体山(なんたいさん・標高871m)、右が最高峰女体山(にょたいさん・標高877m)です。

…今回は写真中央下部にあたる筑波山神社から、2つの頂の間にある御幸ヶ原(みゆきがはら)へ。男体山を往復した後、女体山へ登り、写真右端の「つつじヶ丘」へ下ります。

前述の「常陸国風土記」には、筑波山について次のような伝説が記されています。

…大昔、神祖尊(みおやのみこと)という神様が、各地を旅していました。ちょうど富士山に到着した時に日が暮れて夜となり、「今夜、私を泊めては頂けないか」…と願います。しかしその日、富士山では新嘗祭(にいなめさい)という重要な儀式が行われていたため、「あなたを泊めることはできない、どうぞお引き取りください」…と、断られてしまいます。

富士山と筑波山にまつわる伝説

機嫌を悪くした神祖尊は、「私にそのような対応をするとは何ごとか!! よしわかった、それならばこの山を深い雪で閉ざし、人々が出入りできないようにしてやるぞ。覚えておれ!!」…と言い放ち、カンカンに怒って富士山を後にします。

そして東へ向かい、たどり着いた場所こそ筑波山。神祖尊は温かく歓迎され、心のこもったおもてなしを受けて一夜を過ごしました。感動した神祖尊は、「これから筑波山には多くの人々が集い、農業や産業や交流がはじまり、大いに栄えるであろう」…と絶賛したのです。

静岡県御殿場市内から眺める富士山
Photo by Manabu Kato in November 12, 2019
ちなみに富士山は…本当に雪に閉ざされてしまいました (あくまでも伝説です)
しかし富士山も、信仰の山として、日本一高い山として、大いに栄えることになります。

さまざまな伝説や神話、数多くの歌に登場する筑波山。富士山と対比して、このように表現されています。

「西の富士、東の筑波」

さて、再び登山に戻りましょう

登山口から約1時間10分。周囲に大木が目立ちはじめると、男女川(みなのがわ)という地点に着きました。男女川は筑波山に源を発し、茨城県南部で桜川(さくらがわ)に合流する川。ここは水源部なのです。

男女川は、有名な「小倉百人一首」に、陽成天皇(ようぜいてんのう)が歌を寄せています。

筑波嶺の 峰より落つる 男女川 恋ぞつもりて 淵となりぬる
「筑波山より流れる男女川、その水が深い淵(ふち…川のよどみ)となるように、私の恋も深まるばかりだ」

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高さ約40m・樹齢約800年という、紫峰杉の大木もあります。

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冷たい水でのどをうるおし、休憩しましょう。

巨木と巨岩の中を、ひたすらに登る

Photo by Manabu Kato in November 12, 2019
ただひたすら、登る、登る、登る…!!

ここが御幸ヶ原、まずは男体山へ

登山口から約1時間45分、ようやく御幸ヶ原(みゆきがはら・標高800m)に登り着きました。

Photo by Manabu Kato in November 12, 2019
Photo by Manabu Kato in November 12, 2019
向かって左、まずは男体山への急な登りです。

岩場を登り、男体山頂上に到着

御幸ヶ原から登ること約15分、1つ目の頂上・男体山(なんたいさん・標高871m)へ到着しました。頂上には、筑波男ノ神 (つくばおのかみ・イザナギノミコト) がお祀りされています。

Photo by Manabu Kato in November 12, 2019
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男体山からの展望。遠く南には、東京湾が光っていました。

男体山に登ったら、今度は女体山へ

男体山からは、次に登る女体山が見えます。

Photo by Manabu Kato in November 12, 2019
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再び御幸ヶ原に戻ってきました。売店や食堂・展望台があり、多くの人々で賑わいます。
ここからいよいよ、最高峰の女体山へ登りましょう。

令和元年11月12日、筑波山登頂

御幸ヶ原から約15分、そして登山口の宮脇駅から約2時間45分。ついに筑波山最高峰・女体山(にょたいさん・標高877m)に到着しました。

Photo by Manabu Kato in November 12, 2019
Photo by Manabu Kato in November 12, 2019
頂上には、筑波女ノ神 (つくばめのかみ・イザナミノミコト) がお祀りされています。
山ガールさんたちといっしょに、無事の登頂を感謝しましょう。

今、秋晴れの筑波山頂上に立つ!!

標高877mの頂上からは広大な関東平野、そして青く広がる霞ヶ浦が…。

Photo by Manabu Kato in November 12, 2019
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快晴の頂上では多くの人々が、心ゆくまで筑波山を味わっていました。

ここからは険しい下り道、慎重に…

さて、筑波山頂上を楽しんだら、今夜の宿泊地・つつじヶ丘へ向けて下ります。ここからは「白雲橋コース」と呼ばれる、岩場が多く険しい道。気を引き締めて歩きましょう。

Photo by Manabu Kato in November 12, 2019
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所々に鎖が取り付けられている険しい岩場、くれぐれも転倒しないように…。

筑波山で大仏さまに出会った!?

しばらく下ると、右上に大きな岩が…。「大仏岩(だいぶついわ)」と呼びます。…たしかに、大仏さまが微笑んでいるように見えますね。

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私はこれまで奈良の大仏さま鎌倉の大仏さまの記事を担当させて頂きました。まさか筑波山でも「大仏さま」に出会えるとは…。私・加藤学は、よほど大仏さまに縁があるのでしょうか(笑)。

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やがて、明日乗る予定の筑波山ロープウェイがすぐ目前を通りました。

筑波山の巨岩はパワースポット (1)

大きな岩の多い筑波山。ここ白雲橋コースには、自然が造りあげたさまざまな奇岩・巨岩が見られ、それぞれがありがたいパワースポットとなっています。いくつかご紹介しましょう。

北斗岩 (ほくといわ) 高さ30mはあろう巨岩、空高く動かない北斗七星が名の由来。

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何ごとにも動揺しない強さの象徴です。

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トンネルのようになっており、岩の下を通り抜けられますよ!!

筑波山の巨岩はパワースポット (2)

裏面大黒 (りめんだいこく) 大黒さまを後ろから見た姿…と伝えられます。

Photo by Manabu Kato in November 12, 2019
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縁起のいい神様・大黒さまとあって、金運・出世運を授けられますよ!!

筑波山の巨岩はパワースポット (3)

出船入船 (でふねいりふね) 2つの岩が「出てゆく船」「入ってくる船」に見えるでしょうか…。

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大きな魚の顔にも見えませんか!?

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船玉神(ふなたまかみ)をお祀りし、航海の安全を守ります。

筑波山の巨岩はパワースポット (4)

国割り石 (くにわりいし) 大昔に神様がこの上に集い、それぞれの国を分けあったと伝えられます。

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母の胎内くぐり (ははのたいないくぐり)

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この岩をくぐれば、赤ちゃんの時の純粋な姿に生まれかわる…とされています。

筑波山の巨岩はパワースポット (5)

高天原 (たかまがはら) 天照大神(アマテラスオオミカミ)をお祀りする稲村神社が岩の上に。

Photo by Manabu Kato in November 12, 2019
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そして、いよいよこの場所にやってきました…。

筑波山の巨岩はパワースポット (6)

弁慶七戻り (べんけいななもどり) 真上には今にも落ちてきそうな巨岩が。
これを恐れた豪傑・武蔵坊弁慶(むさしぼうべんけい)が、7回も引き返してしまったといいます。

Photo by Manabu Kato in November 12, 2019
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以上、筑波山の造るパワースポットをご紹介しました。

弁慶茶屋跡、森の向こうには筑波山が…

女体山頂上から約50分、弁慶茶屋跡(標高750m)という広場に到着しました。少し休憩しましょう。ここからは筑波山神社へ下るコースを右に見送り、「おたつ石コース」で、つつじヶ丘へ向かいます。

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樹木の向こうには、先程登ったばかりの女体山が見えます。
あんなに切り立つ険しい所に登ったとは…驚きました!!

広がる大パノラマ、つつじヶ丘まであと少し

弁慶茶屋跡からも、岩石の多い道が続きます。下ったり登ったり…。

やがて道はだんだん広くなり、目の前に霞ヶ浦関東平野の大パノラマが。

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このあたりは、つつじヶ丘高原と呼ばれ、標高約600mです。
疲れが出る頃ですが、あと少しがんばりましょう。

秋の筑波山登山も、そろそろフィナーレ

大パノラマを楽しみながら、つつじヶ丘高原を下ります。気を引き締めて…。

Photo by Manabu Kato in November 12, 2019
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いよいよ最後の急な下り、眼下には今日の目的地・つつじヶ丘が。
(左には駐車場、右には筑波山ロープウェイの駅が近づいてきました)

突然現れました、巨大ガマガエル!!

つつじヶ丘に下り着く直前。赤い鳥居の下に、金色のガマガエルが鎮座しています。

Photo by Manabu Kato in November 12, 2019

すぐ下には、さらに大きなガマガエルが…。

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ここ筑波山は「ガマの油売り」が名物なのです。

今も受け継がれる筑波山の伝統文化

「ガマの油」とは、「ガマガエル(ニホンヒキガエル)の身体から流れ出る油」から発生したと、昔から伝えられる傷薬です。(ただしその成分については不明、または諸説あり) 

戦国時代から江戸時代にかけて、徳川家康に仕えていた光誉上人(こうよしょうにん)という筑波山のお坊さまが処方したと言われます。その後、筑波山麓出身の永井兵助(ながいひょうすけ)という人が、刀をかざした独特のいでたちと、人々を惹きつける魅力的な「口上」を披露して、大いに売り出されました。

「つつじヶ丘ガーデンハウス」前の肖像パネル。永井兵助はこのような姿で、ガマの油売りを行ったのです。
Photo by Manabu Kato in November 12, 2019
ガマの油売りは今も伝統的文化として、地元の人々に受け継がれています。
詳しくは「筑波山ガマ口上保存会 ホームページ」をご覧ください。

快晴の登山日和でした、そしてこの後…。

女体山から約1時間40分で、つつじヶ丘に到着。今夜宿泊する筑波山京成ホテルです。

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筑波山ロープウェイの右上には女体山が、左下奥には男体山が。

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今日1日お疲れさまでした!! と言いたいところですが、実はこの後ホテルから
感動感激のプレゼントが待っていたのです。それは…!!

部屋からの、ドラマチックな夕景

広大な夕焼け空と関東平野。気高い富士山に丹沢連峰、左にはかすかに箱根の山々が…。

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さらに!! 今朝、高速バスから見た東京スカイツリーが。

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まさか、こんな絶景が見られるとは…夢にも想っていませんでした。

時と共に、夕焼けは色濃くなって…

夜が近づくにつれ、夕焼けの色も変わります。街には無数のネオンが…。

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いつしか東京スカイツリーにも灯りが。(望遠レンズで撮影しました。肉眼で見ることは難しいです)

Photo by Manabu Kato in November 12, 2019
右奥に、赤くライトアップされた東京タワーがわかるでしょうか…。

筑波山の秋空は静かに暮れゆく…

写真のやや右上空には、金星が輝きはじめました。
富士山で宿を断られた神祖尊(みおやのみこと)も、この景色をご覧になったのでしょうか…。

Photo by Manabu Kato in November 12, 2019
2019年は自然災害が多かった年。ここ茨城県そして関東平野も、大きな台風被害を受けました。自然は私たち人間に恩恵をもたらしながらも、時に人間の力では抗えない恐ろしさをみせます。
これから人間は自然とどう関わっていけばいいのか…人生初の筑波山で考えさせられました。

筑波山京成ホテルのみなさま、プレゼントをありがとうございます!!
筑波山の1日目は発見と感動の連続で、フィナーレを迎えました。

私の旅はまだつづきます。どうぞ明日(後編)をお楽しみに!!