「泣く子はいねがー、親の言うこど聞がね子はいねがー」
と言いながら鬼がやってくることで有名なナマハゲは、男鹿の人々にとっては怠け心を戒め、無病息災・田畑の実り・山の幸・海の幸をもたらす、年の節目にやってくる来訪神です。
ナマハゲを迎える家では、昔から伝わる作法によって料理や酒を準備し、丁重にもてなします。今では、毎年大晦日の晩に行われている「ナマハゲ行事」は、かつては小正月に行われていました。
1978年「男鹿のナマハゲ」として重要無形民俗文化財に指定されました。
こんなに有名なナマハゲですが、大晦日の行事ということで本物を実際に見るチャンスは1年に1度しかありませんし、近年では少子高齢化、後継者不足により、ナマハゲ自身(ナマハゲの中の人?)も高齢化し、迎え入れる家も少なくなりました。
そんな希少なナマハゲを見るだけでなく、体感することができるのが男鹿真山伝承館です。
今回は、子供が見たら絶対に泣いちゃうドキドキのナマハゲ体験を、東北が大好きなわたしがご案内します。
Contents
そもそも、ナマハゲってなにもの? ~鬼の格好をしているナゾと持ち物の不思議~
ナマハゲは来訪神と言いながら、なぜ鬼の格好をしているのでしょう。また、「ナマハゲ」ってネーミングはどこから来たの?なんで包丁と桶を持ってやってくるの?と、疑問がたくさんありますが、これを順に解決していきましょう。
999の石段とナマハゲの伝説
ナマハゲの起源には4つの説がありますが、一番有力だと言われる説が「999の石段とナマハゲの伝説」というものです。
むかし、漢の武帝が五匹の鬼たちを連れて男鹿にやって来ました。武帝は5匹の鬼たちを家来として使っていましたが、1年に一度正月だけを休みに決めました。
鬼たちは、正月になると大喜びして里へ降り、作物や家畜を奪って大暴れし、ついには里の娘までさらっていくようになりました。
そこで、村を荒らされて困った村人たちは「一晩で五社堂まで千段の石段を積み上げることができれば娘を差し出すが、できなければ村を出ていく」と、鬼を連れてきた武帝と約束しました。
日が落ちると、鬼たちはあっという間に石を999段まで積み上げてしまいました。
あと一段となった時、村人が機転を利かせ一番鶏の鳴き真似をして「コケコッコー」と夜明けを告げると、それを聞いた鬼たちは驚いて逃げ去り、以後二度と姿を現さなくなったということです。
その後、鬼が来なくなってちょっぴり寂しく感じた村人たちが、年に一度正月15日に鬼の真似をして村中を回り歩く様になったのが、ナマハゲ行事の始まりだと言われています。

この五匹の鬼は、「赤神神社五社堂」に祀られているという説もあり、石段は実在します。
ナマハゲは地域の行事として定着していきましたが、その記録の中で最も古いものは、江戸時代の紀行家である菅江真澄が記した「牡鹿乃寒かぜ」の中にあります。
1811年1月15日に訪れた男鹿の宮沢のナマハゲを、生身剥ぎ(ナモミハギ)として詳細な絵入りの解説を残しています。
「ナモミハギ」とは?
冬に囲炉裏で長く暖をとっていると、手足が低温やけどになって「火だこ」ができる場合がありますが、これを方言で「ナモミ」と言います。これを剥がす行為が「ナモミ剥ぎ」であり、これが変化して「ナマハゲ」になったと言われています。
鬼は片手に出刃包丁を持っていますが、この包丁は「ナモミ」を剥ぐためのものです。剥がした「ナモミ」は、もう一方の手に持っている桶に入れます。
持っている小道具にも理由があるんですね。
男鹿真山伝承館とはどういう施設?~毎日、大晦日を再現してくれる感動の場所~
男鹿真山伝承館は、民俗行事として大晦日のみに行われていたために地元の人以外は見ることが難しかったナマハゲ行事を、広く観光客の方にも知ってもらうことを目的に作られた学習施設です。
古いしきたりを受け継いでいる真山地区のナマハゲ習俗を、昔ながらの施設で体感できる学習講座を行っています。
建物自体は、男鹿地方の典型的な曲家(まがりや)民家です。1907年に男鹿中の島田に建てられた目黒家住宅を、そのまま使用しています。
「男鹿地域の民家の特色を残した貴重な遺構だということですが、馬屋の部分以外は、昔住んでいた千葉の田舎にある祖母の家とほぼ同じ作りでした。そう考えると、日本の農家の多くはこのような形式だったのだと思います。」
現在は、民俗資料等を展示しつつ、男鹿真山伝承館として公開・活用されています。

ここで披露されるナマハゲは、真山地区で古くから伝わっている角のないお面をかぶり、二匹一組となって家々を練り歩きます。
ナマハゲは、むやみやたらに家々に入るのではなく、「先立(さきだち)」という役目をする者が事前に家の主人に対してナマハゲを入れても良いかを確認します。良いという返事をもらった場合にのみ、ナマハゲが「ウオー!」という奇声をあげて家に入ります。
家に入った後も、動作一つ一つにも昔からのしきたりがあります。
まず、家に上がりすぐに四股(シコ)を7回踏みます。これにより、初めて家の中を歩き回ることができるようになります。「ナマケモノの匂いがする」「ナマケモノはいないか!」などと、荒荒しい声を上げ、畳を強く踏みしめながら歩き回ります。
その家の主人は、暴れるナマハゲをなだめて丁重にもてなし、ナマハゲにお膳を添えます。ナマハゲは添えられたお膳に座る前に、5回四股を踏みます。唸っているナマハゲに対して、主人は酒肴をすすめます。
主人とナマハゲとの間で様々な問答が交された後、ナマハゲは来年も豊作であるよう祈願し、再び立ちあがり3回四股を踏んで、家の中を歩き回ります。
ナマハゲは家を立ち去る前に「来年もまた来るぞ!」と言い残し、去っていきます。ナマハゲは、その家の子供達が病気や怪我などせず幸福になれるよう四股を踏むのです。
見学者との距離が近いので、迫力は満点です。言葉も、ネイティブの秋田弁よりわかりやすいので、話している内容を聞きとるには問題ありません。
「地元の飲み屋のおじいちゃんよりも、ずっとわかりやすいですよ。」
では、そんなナマハゲ行事を動画で見てみましょう。
男鹿真山伝承館のなまはげ習俗学習講座 開講時間と入館料
開講時間 |
4月~11月 12月~3月の土日祝日および12月31日 1月1日・2日 |
入館料 |
一般 700円(税込756円) |
他にもあるぞ! なまはげを体感できる施設~この3つは必見!~
なまはげ館
男鹿真山伝承館の隣に、「なまはげ館」があります。

なまはげ館には、男鹿の各地区に伝えられた多種多様なナマハゲの面や衣装の実物が展示されていたり、ナマハゲの里である男鹿の自然や風習やナマハゲに関する資料が展示されていたり、また大晦日のナマハゲ行事を紹介する映画をスクリーンで上映されていたりします。
ナマハゲの面は、地区によっていろいろな種類があるのがわかります。いかにも怖い面だけではなく、ちょっと見カワイイ感じの鬼がいますが、見ているうちにこれが意外と地味に怖い感じがしてきます。
「笑顔で怒っている人が実は怖い、アレです。」
本物のナマハゲ衣装を身につけることができる「ナマハゲ変身コーナー」もあり、見るだけでなく楽しむこともできます。
ここ、絶好の自撮りポイントですから素通り厳禁です。
入館料 |
一般 500円(税込540円) |
真山伝承館との共通入館料 |
(4~11月) (12~3月) |
真山神社

「真山神社」は、男鹿真山伝承館やなまはげ館から歩いてスグです。
男鹿真山伝承館に来るまでに鳥居をくぐっていますから、すでに真山神社の神域に入っていたんですね。
歴史は古く、古事記・日本書紀に記される12代景行天皇の時代に、武内宿禰(たけのうちのすくね)が北陸北方地方視察のあと男鹿半島に立ち寄った際、「使命達成」「国土安泰」「武運長久」を祈願するために、瓊瓊杵命(ににぎのみこと)、武甕槌命(たけみかづちのみこと)の二柱を祀ったことが始まりだと言われています。
平安時代以降、仏教が日本全国に広まりはじめた頃(859年~877年頃)には、円仁慈覚大師によって湧出山(男鹿半島)は二分され、北を真山、南を本山と称してそれぞれが修験の霊場として繁栄するようになりました。円仁慈覚大師とは、平泉の中尊寺や毛越寺を開いた人物ですね。
杉木立に囲まれた境内は静かで、荘厳な雰囲気を感じることができます。慈覚大師の手植えと伝えられる、樹齢1,000年余りの榧(かや)の巨木もありますよ。
真山神社の拝殿は仁王門から70段ほどの石段を登ったところにありますが、本殿は真山(567m)の山頂にあります。
真山神社から本殿まで、あるいは本殿から門前の集落までの道は修験者の行道として開かれ、現在でも5月末にお山開き神事が行われ、春から秋にかけて登山参詣(お山かけ)に出かける多くの人で賑わっています。
近年、「お山かけ」は隠れたパワースポット巡りとして人気があり、初心者~中級者向けの優良なトレッキングコースにもなっています。コースは真山神社登山口から真山、本山、毛無山を縦走する約10kmで、真山神社登山口から門前まで、約7時間程度です。
健脚の方は景色も良いと評判なので、チャレンジしてみるのも楽しいと思いますよ。
また、ナマハゲゆかりの地として神社の境内では、毎年2月の第2金・土・日曜日には「なまはげ柴灯(せど)まつり」が行われることでも有名です。
真山神社境内の広場に焚かれる柴灯火の明りのもとで、男鹿地方独特の祓い神楽を奉納する「湯の舞」と、伝統的な湯立て神事「鎮釜祭」でお祭りが始まり、その後ナマハゲに扮する若者が神職にお祓いを受けた面を授かってナマハゲへと化して山へ戻る「なまはげ入魂」が行われます。
神楽殿では男鹿市各地で大晦日に行われる伝統行事「男鹿のナマハゲ」の再現や男鹿各地のナマハゲの登場する「里のなまはげ」、また郷土芸能として定着した勇壮な「なまはげ太鼓」の演奏が繰り広げられます。
お祭りの終盤に、松明をかざしたナマハゲが雪山から降りてくる姿は幻想的です。下山したナマハゲが観客であふれる境内を練り歩き、お祭りはクライマックスを迎えます。
最後に、柴灯火で焼かれた護摩餅を神官からナマハゲに捧げられ、ナマハゲは山深くの神のもとへと帰っていきます。
赤神神社五社堂

ナマハゲの起源とも言われている「999の石段とナマハゲの伝説」の石段が積まれたのは、赤神神社五社堂だと言われています。
「門前駐車場」バス停付近に、ドドーンと大きなナマハゲ像が見えます。これが目印です。その先の通り沿いに「赤神神社拝殿」があります。999の石段は、拝殿右からスタートします。
石段は「鬼が一晩で積んだ」と云われるだけあり、とても不ぞろいでデコボコしています。ヒールの高い靴やサンダル等での参詣はおすすめできません。できれば歩きやすくて滑らない運動靴のようなものがオススメです。
一般の人で20分ほどだと言うのですが、わたしは日頃の運動不足を憂うこととなりました。
「休みながら愚痴りながら登ったら、30分以上もかかりました。」
鳥居まで来ると、「姿見の井戸」が左側に見え、奥には五社堂がチラリと見えます。
姿見の井戸とは、井戸の中を覗いて水面に自分の姿が映らなかったら、3年以内に命を落としてしまうという言い伝えがあります。自分が見えるまで、存分に覗いてください。
そして、井戸を背に進むと現れるのが五社堂です。
祀られているのは5匹のナマハゲで両親と子供3人だと言われていたり、漢の武帝とともに来た5匹の鬼だとも言われています。また、赤神神社の「赤神」とは、漢の武帝のことだと言われています。
なお、男鹿真山伝承館からのアクセスは、バスや乗り合いタクシーでは直接行けません。男鹿温泉などで宿泊して日を改めるか、車を利用しましょう。
男鹿真山伝承館へのアクセス
男鹿半島の観光は、自動車以外を利用しようとすると、とても大変です。特に、男鹿真山伝承館に行こうとすると、一般運行のバス停からは30分以上も歩かなければなりません。
そこで、「コレを知っているのと知らないのでは大違い!」という方法があるので、ココの章をしっかりチェックしてから出かけてくださいね。
男鹿真山伝承館まで自動車でのアクセス
このエリアでの移動で便利なのは、やはり自動車です。しかし、遠くから来る場合は男鹿半島内の海沿いの道や山道がクネクネなのを考えると、かなり疲れます。休憩を取りながら、安全運転で来てくださいね。
最寄りの昭和男鹿半島I.Cまでの所要時間は、次のとおりです。休憩は含まれていませんよ。
- [東北自動車道] 浦和I.C から 約6時間40分(589.4km)
(東北自動車道→秋田自動車道→秋田外環状道路) - [東北自動車道] 仙台宮城I.C から 約3時間30分(261.8km)
(東北自動車道→秋田自動車道→秋田外環状道路) - [秋田自動車道] 秋田中央I.C から 約20分(18.7km)
昭和男鹿半島I.Cから男鹿真山伝承館までは、国道101号を利用して約40分です。
レンタカーの場合は、男鹿駅にレンタカー屋さんが無いため、秋田空港か秋田駅で手配するのが無難です。
男鹿真山伝承館まで鉄道でのアクセス
東京などから行く場合には、秋田新幹線で一度秋田駅を目指しましょう。秋田駅からJR 男鹿線の男鹿駅で下車します。
秋田までの所要時間は次のとおりです。
- 東京から秋田まで 4時間
- 仙台から秋田まで 2時間40分
- 盛岡から秋田まで 1時間30分
秋田から男鹿までは、普通列車で約57分です。列車は1時間に1本もありません。しっかり時刻表を確認しておきましょうね。
男鹿駅からは路線バスがありますが、非常に本数が少ないです。しかも、男鹿真山伝承館へはバス停から30分も歩くので、お勧めしません。
「なので、私がオススメしたいのは「男鹿半島あいのりタクシー なまはげシャトル」です。」
これは、男鹿温泉郷・なまはげ館・男鹿真山伝承館・真山神社・男鹿水族館GAO・入道崎・赤神神社五社堂などの男鹿半島の主要観光スポットをつなぐ予約制の乗り合いタクシーです。タクシーよりリーズナブルで1名から利用可能です。
これなら、男鹿駅から男鹿真山伝承館まで約25分、片道1,000円です。必ず予約が必要なので、事前に時間やルートを考えておいてくださいね。
ネット予約 |
|
電話予約・お問い合わせ |
Tel. 0185-24-4700(受付時間 8:30~17:00) |
そのほかの手段では、観光タクシーフリープランもオススメです。
2人以上の場合、料金は2時間で1人3,500円です。好きなスポットを組み合わせることができますが、延長料金は30分で3,360円かかるので注意が必要です。
なまはげシャトルで行けないルートは観光タクシーで、それ以外はなまはげシャトルを利用してもいいですね。
普通にタクシーで行くならなら、男鹿駅からなまはげ館までおよそ4,000円です。
男鹿真山伝承館まで飛行機でのアクセス
秋田空港からは、レンタカーまたはバス、乗り合いタクシーを利用します。
バスの場合には、秋田駅までリムジンバスがあります。所要時間は約40分です。秋田駅からは前項を参照してください。
乗り合いタクシーは、秋田エアポートライナー「男鹿半島号」で空港から男鹿まで直行できます。1日に3往復しかないので、時間は要チェックです。
事前に予約が必要です。秋田空港から男鹿真山伝承館まで1時間35分、料金4,000円です。
秋田エアポートライナーHP:http://akita.airportliner.net/jp/

まとめ
ナマハゲの由来や体感できる観光スポット、鬼を祭った神社やお祭りなどをご紹介してきました。
最後に整理しておきましょうね。
- ナマハゲ行事は、男鹿半島の各地域に伝わる大晦日の伝統行事で、ナマハゲ自身は男鹿の人々にとっては怠け心を戒め、無病息災・豊漁豊作をもたらす、年の節目にやってくる来訪神だった。
- ナマハゲ行事を体験学習するなら、男鹿真山伝承館が絶好の施設。
- ナマハゲ展示は、男鹿真山伝承館となりのナマハゲ館へ。
- 修験の霊場として栄えた真山神社は荘厳な雰囲気。2月の「なまはげ柴灯まつり」は必見!
- ナマハゲ伝説にもある「999段の石段」が残る赤神神社五社堂は、歩きやすい靴でトライしよう。
- アクセスは自動車(レンタカー)がベストだけど、なまはげシャトルを利用すればリーズナブルに移動可能。そのかわり、事前にしっかり時間計算をしてから出発しましょう。
「さて、男鹿真山伝承館やなまはげ館では、観光にどのくらいの時間がかかるのか、行程の計算が必要ですよね。」
実演開始時間にも左右されますが、両方の施設で平均的には1時間30分程度あればいいかと思います。
実演自体は20分程度ですが、施設の見学や「ナマハゲなりきりセルフィータイム」も必要ですよね。真山神社を参拝するなら、もう少し時間を取るといいでしょう。
もし、車で移動するなら、男鹿半島を海沿いに時計回りに移動するのがオススメです。
赤神神社近くのゴジラ岩も最近特に有名ですが、駐車場へ降りる道がゴツゴツで、車体の下を擦るのが心配な道です。
ゴジラ岩は全国にあるので、ゴジラファンならともかく、そうでもない人だったら無理していくほどではないと、個人的には思います。
それよりも、もし車で足を伸ばせるなら、入道崎や寒風山もオススメですよ。
あと、秋田をドライブするなら、是非「ばばへらアイス」を食べてください。

街道沿いにカラフルな出店で、シャーベット状のアイスをおばさまがその場でコーンに盛ってくれます。
中には、きれいなバラの花を作ってくれる人もいます。(バラ盛りというそうです)
さっぱりした味なので、夏のドライブには最適ですよ。
思い出したら、すっごく食べたくなってきました。
暑くなってきたし、ババヘラ食べながらナマハゲに会いに行きましょう!

千葉生まれ埼玉育ち東京在住のオバサンです。城好き、歴史好き、文化遺産好きの鉄子です。主に文化的歴史的な側面から、東北や甲信地方の観光地を中心に、その魅力をご案内します。